今回は農薬について太陽光発電所を運営、保守・保全をおこなう上で必要な内容をQ&Aを交えてわかりやすくお話したいと思います。
専門用語は多々ありますが、なるべく使用せずにご説明します。ただ、事業主の方が、我々のような防除・防疫業者やメーカーの方とコミュニケーションする際に必要な用語は記載させていただきます。
雑草対策(4)太陽光発電所版IPM(Intergrated Pest Management=総合的病害虫・雑草管理)の【防除】・【予防】と雑草対策(5)最適な防除方法のポイントの「化学的防除」(除草剤などの化学薬剤を使用することで雑草対策をすること)と密接に関係していますので、併せてご一読いただければ、今回の内容もより理解が深まるかと思います。
農薬とは
農薬を一言で表現すると、「人の嗜好、目的に合わせて作られた人為的な農作物(樹木・農林産物も含む)」を「病害」、「虫害」、「雑草害」から保護・防疫し、農作物の生理機能の増進・抑制するための薬剤や天敵です。
ちなみに、ドラッグストアやホームセンターで販売されている、
ハエ、蚊、ゴキブリ、ハチなどの害虫防除薬剤は人への害を防ぐことを目的としているので、農薬ではありません。
次に、一般的に読者の方があまりご存知ない、または、気にされてない3つの押さえるべきポイントをQ&A形式で、かつ、実際の会話のなかで、よく交わされるやり取り(会話の流れ)と同じ順番でお話したいと思います。
Q1 | 「ホームセンターやインターネットなどで販売している除草剤は農薬ですか?」 |
---|---|
A1 |
この質問は、本当に多くの方から聞かれます。 質問に対する返答は、「農薬の除草剤」と「農薬でない除草剤」の両方が販売されており、一般的には「農薬ではない除草剤」の方が安く販売されています。 【両者の見分け方】 製品のラベルや表示画面に「農林水産省登録番号」があるかないかで確認することができます。「農薬の除草剤」の場合、「農林水産省登録 第18×○△号(例)」と必ず記載されています。またこのラベルには使用者が守るべき事や注意事項が記載されているので、必ず読んで、間違わないように使用・管理してくださいと付け加えて説明されています。 |
(この返答に対し、次に必ず質問されるのがQ2です) | |
Q2 |
「なぜ価格に差があるのですか?」 「調べると薬剤の成分が同じなのになぜ価格に差があるのですか?」 「同じ薬剤の成分なのに何が違うのですか?」 |
A2 | 「農薬取締法」に基づいた「登録制度(=農林水産省に登録された農薬だけが製造、輸入及び販売できる仕組み)」の有無だけです。 |
(この返答に対し、次に必ず質問されるのがQ3です) | |
Q3 | 「登録が有るのと無いので何が違うのですか?」 |
A3 |
この質問はとても発電事業者にとってとても重要な内容です。 回答としては、次の一点の違いしかありません。 人が病気などで使用する医薬品は厚生労働省が医薬日品医療機器等法で規制しています。それと同じで、農薬は農林水産省が登録を認めた薬剤になります。さらに販売、使用及び廃棄の規制(農薬取締法や廃棄物の処理及び清掃に関する法律)がありますので、登録が有るのと無いのでは大きな違いがあります。 使用にあたっては農薬取締法だけでなく、水質汚濁防止法、環境基本法、食品衛生法他が適用され、容器までも廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が適応されるなど厳しく規制されています。 これにより、散布作業、ドリフト(飛散)対策、作業者の安全管理、残った農薬の処分、農薬ケースの廃棄などが管理しやすくなるため、近隣関係でなく作業者の安全面など、第1回「急増する太陽光発電の雑草トラブル、知っておきたいリスクと対策」に書かせていただいたようなリスクに対しても、より安全に対応することができます。 私は、太陽光発電所(=非農耕地)は農作物ではありませんが、大きな敷地面積が多いので、近隣との良好な関係構築・維持と安全管理の両面で、農薬を使用する方が良いと判断しています。 |
これ以上に発電事業者にとって重要なポイントは、農薬取締法の押さえるべき点を知り・理解し、発電所の運営管理、保守・保全に上手く取り込むことです。これは、まさに、太陽光発電所版IPMの重要な一つの対策であると考えています。
農薬の分類
農薬は用途別に以下の11種類に分類されています。ここでは、さらに雑草対策(1)「急増する太陽光発電の雑草トラブル、知っておきたいリスクと対策」でご説明した発電事業及び近隣・地域におけるリスク対策の観点も取り入れて、わかりやすく一覧表にまとめてみました。
分類 | 用途 | リスク対策 | |
---|---|---|---|
発電 事業 |
近隣・地域 | ||
殺虫剤 | 農作物を加害する害虫を防除する薬剤 | 〇 | |
殺菌剤 | 農作物を加害する病気を防除する薬剤 | 〇 | |
殺虫・殺菌剤 | 農作物の害虫、病気を同時に防除する薬剤 | 〇 | |
除草剤 | 雑草を防除する薬剤 | 〇 | 〇 |
殺そ剤 | 農作物を加害するノネズミを防除する薬剤 | 〇 | 〇 |
植物成長調整剤 | 農作物の生育を促進したり、抑制する薬剤 | 〇 | 〇 |
誘引剤 | 主として、害虫をにおいなどで誘い寄せる薬剤 | 〇 | |
忌避剤 | 農作物を加害する哺乳類や鳥類を忌避する薬剤 | 〇 | |
展着剤 | ほかの農薬と混合して用い、 その農薬の付着性を高める薬剤 |
〇 | 〇 |
天敵 | 農作物を加害する害虫の天敵 | 〇 | |
微生物剤 | 微生物を用いて農作物を加害する 害虫・病気等を防除する薬剤 |
〇 |
発電事業のリスクの一つに、動物よるケーブル被害があります。これは、保険対象外のケースが多く、非常に頭が痛い問題です。とくに、ネズミなどげっ歯類によるケーブルをかじる被害(間接リスク)はよく耳にします。
私は、この対策の一つとして、殺そ剤の発電事業枠に○をつけました。ただし、殺そ剤や殺虫剤、殺菌剤等は「毒物及び劇物取締法(いわゆる毒劇法)」に該当するものが多いので、取扱いには最大限の注意が必要です。
また、近隣・地域に多くの○がついていますが、間接リスク対策に使用する可能性が高いためです。
間接リスクの具体的事例としては、雑草に大量のカメムシやアブラムシなどが大量発生し、近隣・地域から苦情、防除の依頼があった場合、殺虫剤を使用する可能性があります。
また、虫がつきやすい植生はだいたい決まっていますので、除草剤を使用する目的をきちんと説明すると近隣や地域から理解を得やすくなります。
雑草対策(7)では農薬の安全性及びメリットとデメリットについてご説明します。