基礎から学ぶ太陽光発電所の雑草対策(8) 事故があれば
太陽光発電オーナーに責任も、
注意したい雑草対策業務の
「安全管理」

草刈りや農薬散布などの雑草対策業務における「安全管理」について解説します。事故などが発生した場合、業務を発注した発電事業者側の責任が問われる場合もあるため、注意したいポイントです。

安全第一

雑草対策(7)(太陽光発電所での農薬利用、「法令違反」を避けるための注意点)に続く内容ですが、草刈りと農薬使用の除草を計画・実施する際に気を付けなければならない「安全管理」のポイントを解説したいと思います。「なぜ安全管理?」と思われるかもしれませんが、20年間の長い年月を安全で事業を継続することはとても大変で重要なことだからです。発電所内で事故をおこした場合、発電事業者へ責任が発生するからです。
例えば、過去にテレビなどで報道されましたが、大きな工場の高所屋根に設置した太陽電池パネルを洗浄中に18歳未満の少女が落下して死亡した悲しい事故がありました。この場合、労働基準法第62条「満18歳未満の危険有害業務の就業制限」に対し、

法令違反となります。業務を発注した側にも大きな責任が生じるからです。労働基準監督署への対応だけでなく、場合により改正FIT法による改善命令や認定取消になる恐れがあるからです。
また、2018年度は太陽光発電所の事業環境が大きく変わり、自然災害による被害も全国各地で発生した年でした。不適切な太陽光発電事業の運営に対し、地域、行政からの厳しい視線がなお一層増えてきたと実感しています。また、法令違反の発電所には認定取消や改善命令がでていると聞いており、太陽光発電事業を開始または継続するからには適切かつ安全安心に運営していく、という潮目を迎えつつあると思っています。

除草作業の安全管理

雑草対策(4)「雑草対策の失敗を防ぐ「太陽光発電所版IPM」とは何か?」では、毎年、定期的に発生する草刈りおよび農薬等薬剤を使用する際の安全管理に絞り説明しました。防草シート等、長期的に補修、再施工が必要な工法は除外させていただいております。
今回は、安全対策がもっとも有効なのリスク対策になることをわかりやすく解説しますので、

雑草対策(4)と照らし合わせながら読んでいただくとご理解しやすいと思います。
安全管理(リスク管理)は、その対象によって「発電所設備」「地域・近隣」「作業者」の3つに大きく分けられます。この点をおさえることが、長期安定した主力電源をうみだす安心安全な事業運営につながると思っています。

この3点が、各工法の何に該当するかを表にまとめてみました。

雑草対策方法 安全管理の対象
発電所設備 地域・近隣 作業者・関係者
草刈り  
農薬の除草剤などを使用  
農薬でない除草剤などを使用

*明らかな故意・法令違反行為は対象にしておりません

ご覧の通り、それぞれの雑草対策方法によって、安全(リスク)管理の対象が違ったり、重なっているのがわかります。これらから、雑草対策の安全管理の方法が画一的ではなく、対象に合わせた管理が必要なことがご理解いただけるかと思います。

工法別の安全対策について

上の表を元に、太陽光発電事業者の方が工法別、対象別に取り組むべき、基本的な安全(リスク)対策をわかりやすく表にまとめみました。ただし、農薬でない除草剤は農薬取締法が適用されず、安全性が担保できないため、除外させていただきます。

草刈りの場合

対策の目的 対象別の対策
発電所設備 作業者・関係者
1.破損防止
草刈り機などで発電所設備を
破損させない。
有資格者での作業及び管理 有資格者での作業及び管理
破損する恐れのある個所に
注意喚起の目印などを設置
KY(危険予知)、TBM(ツールボックス
ミーティング/危険予知訓練)活動を実施
業務仕様書、業務実施計画書に
危険個所と対策方法を記載
切断しやすいケーブルへの保護材取付
  飛び石による太陽電池パネルのバックシート
及びセル破損を考慮した作業方法、草刈り機
を使用
2.作業員の安全管理
怪我・事故を発生させない。 運営管理体制を構築
保護帽、保護服、保護手袋、保護眼鏡などの
保護具の着用を必須とする
KY(危険予知)、TBM(ツールボックス
ミーティング/危険予知訓練)活動を実施
保安講習、研修などの安全教育を実施
熱中症の対策、予防を実施
救急病院等の緊急連絡先リストの作成と
手順のマニュアル化
草刈機の使用前点検、使用後のメンテナンス
実施とその記録
発電所の仕様により、作業者は低圧もしくは
高圧・特別高圧取扱者安全衛生教育講習を
修了した者が作業
上記を実施しない者、企業には発注しない、
入場させない

農薬の除草剤などを使用

対策の目的 対象別の対策
地域・近隣 作業者・関係者
1.被害防止
除草剤をドリフト(飛散)
させない
有資格者での作業及び管理 有資格者での作業及び管理
事前に告知するなど、近隣と十分な
コミュニケーションを実施
KY(危険予知)、TBM(ツールボックス
ミーティング/危険予知訓練)活動を実施
除草剤の成分・使用量・注意点を
事前に把握し、資料を用意
除草剤のラベルをよく読み、適切に使用
  風速を管理し、中止基準を設定
  業務仕様書、業務実施計画書に対策方法を記載
  使用記録をつけて3年間保管
2.作業員の安全管理
怪我・事故を発生させない。 運営管理体制を構築
保護帽、保護服、保護手袋、保護眼鏡などの
保護具の着用を必須とする
KY(危険予知)、TBM(ツールボックス
ミーティング/危険予知訓練)活動を実施
保安講習、研修などの安全教育を実施
熱中症の対策、予防を実施
救急病院等の緊急連絡先リストの作成と
手順のマニュアル化
発電所の仕様により、作業者は低圧もしくは
高圧・特別高圧取扱者安全衛生教育講習を
修了した者が作業
上記を実施しない者、企業には発注しない、
入場させない

当社の事例

野原グループでは、道路標識、フェンス、ガードレール、高速道路の遮音壁などの公共及び民間の土木工事も手掛けています。それに付随して、除草作業、防草シート工事、緑化工事などもおこなっており、ここから得られた知見を太陽光発電所向けの管理に活かしています。
私ども(以下、当社とします)が実施する太陽光発電所の雑草対策は、次の3つの目的から成り立っています。

①雑草をリスク(邪魔者扱い)からベネフィットに変える(味方にする)

②ICT=Information and Communication Technologyによる保守保全(O&M)の革命(20年間の運営体制確立と業務及び管理コストの削減)

③限られた予算の中、雑草対策費用を下げ、他の点検費用に充てる

当社では環境省のIPM(Integrated Pest Management=総合的雑草・病害虫管理)から、独自に「太陽光発電所版IPM」を設けて、これを指針に発電所と地域に合わせた計画を立案し、対策を実行しています。
ここでは、当社の取組例として何度か実績のある、地元雇用の「草刈業務」と専門家による「農薬による除草」を組み合わせた事例をご紹介します。

除草費用・管理費の削減と長期安定体制の確立した雑草対策の事例

困難な除草作業費用を削減し、クラウド+情報端末(スマートフォン等)+共有化を利用することにより大幅に事務量及び管理費用を削減しつつ、長期安定した体制を実現しました。

発電事業者の深いお悩み

発電事業者は雑草の影による発電量低下と植生変化による除草費用の増大に対し、的確な対応ができず悩んでいらっしゃいました。さらに、近隣環境へ悪影響を及ぼす雑草の拡散や美観が欠如するなどの理由で、不適切管理に対する苦情が入り始め、問題となっていました。
この発電事業者の方は複数所有する太陽光発電所も含め、雑草対策は草刈作業でした。しかし、年々増える雑草量と植生変化に対応できず、回数や作業日数が増えたため対策費用が増大し、

収益を圧迫し続けていました。
さらに、雑草を捕食する動物が発電所に侵入し生息地になったため、設備の破損や近隣作物への被害も発生していました。また、試験的におこなった除草剤(おそらく無登録農薬と思われる)を使った対策を実施するが、不適切な除草剤の採用と専門知識がない無資格業者による不適切な使用方法で近隣からの苦情も発生していました。限られた予算の中、他の工法の採用もできず万策が尽きた状態でした。

調査

そこで当社に問い合わせがあり、対象の現地調査と土を採取しての土壌分析をおこないつつ、ヒアリングをおこないました。
コンサルティングを進めている最中、大変驚いたことが3つありました。①除草業者が提出すべき実施計画書がない。②報告書はあるが、資格者リストや写真台帳が無い・欠如、フォーマット・

記載内容がバラバラで、次年度の対策にいかせない。③作業者が低圧・高圧電気取扱業務特別教育を修了した方がいない。でした
原因は発注者側にもありました。業者が提案書や見積りを作成するための「除草作業仕様書」がなく、業者任せだったのも原因の一つでした。

対策

①「除草費」の削減、②「管理費」の削減、③「運営体制」の構築をポイントに、対策の大きな柱として、発電事業者と除草業者に対策を切り分けました。
①「除草費」の削減は、地域の雇用確保と安全・安心を前提とし、事前に中長期視点で該当場所と近隣の植生及び土壌(土の成分と土性)調査を実施しました。この結果から、主に「草刈り」を地域雇用による作業とし、部分的に「農薬による除草」を専門家による作業に切り分ける計画をたてました。併せて、発電事業者と相談のうえで、農薬による除草は発電事業や近隣に悪影響を及ぼす雑草のみに限定し、「農薬取締法」の遵守、環境省の「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」を参考したオリジナルの雑草防除仕様書、実施計画書、実施完了報告書の雛形を作成しました。

作成した実施計画書をもとに、地権者、近隣の農家などに農薬使用の了承を得たうえで、有資格者の防除専門家が、ドリフト(飛散)しない「農薬を塗布」する方法で対象雑草の防除をおこないました。
②「管理費」の削減、③「運営体制」の構築のために、当社が開発したICTを活用したクラウドサービスを改良し使いました。具体的には、パソコンとスマートフォンなどの情報端末が連動し、発電所運営関係者とのパソコンで情報共有ができる仕組み、除草作業者はスマートフォンなどの情報端末を操作するだけで、写真撮影、実施報告とマッピングができ、報告書の自動作成及び関係者への迅速な情報共有ができるようにしました。

効果

1.除草費用の削減
悪影響を及ぼす雑草を防除することにより、草刈り年間回数が減り(2回→1回や3回→2回等)年間費用の大幅削減及び近隣の方が嫌う雑草(セイタカアワダチソウ、クズ等)の防除に成功しました。

2.管理費の削減
除草業者は大きな業務負担となっていた報告書作成の時間が、当社の管理システムの定型化した管理項目により、写真のコメントと日付、日報、報告書等が素早く、自動作成できるようになった。よって、作成の総時間がコメント作業も含めて従来の1~2日の業務から約30~60分となり、大幅な業務の負担と管理コストの削減となりました。
さらに作業者や現場管理者が情報端末の使用により、どこでも簡単でスピーディーに作業ができるため、現場作業後に事務所に戻る移動時間が無くなり、働き方改革にもなりました。

3.安全・安心な運営体制の構築
ICTの活用により、作業前の仕様書、実施計画書や作業完了後に報告される実施報告書、発電所情報、保安体制などの運営上必要なデーターの保管が20年以上可能で、改定履歴が残るようにしています。
また、関係者(発電事業者、電気主任技術者、各種業者、金融会社等)に閲覧権を与えることにより、発電所の仕様、履歴、今後の予定、体制表など、必要な人が必要な情報だけ、リアルタイムかつ確実に共有ができる体制を実現し、クラウドサービスでパソコンの交換、人の異動、委託先の変更など中長期的なリスクの影響を受けることなく、安全安心な運営体制が築くことができました。

雑草対策(9)では皆さまからのご相談、質問にお答えした事例になります。